~嗅覚器・匂い情報処理に基づく行動メカニズムの探究からセンサ・ロボット開発まで~
IoTの普及と共にセンサの重要性が増している中、先端センサ研究を行う大学とセンサで事業を行う企業との間で協調関係を築き、ビジネスモデルの検討やセンサ技術の検証等の議論を行う場として活動しているセンサ&IoTコンソーシアム。
コンソーシアムが主催(後援:サイエンス&テクノロジー)する本セミナーでは、生物が持つ優れた嗅覚や匂い情報に基づいた行動メカニズムの解明を元に、そのバイオミメティック応用に向けた研究を3名の講師が解説します。
セミナー講師
コーディネーター:東京大学 先端科学技術研究センター 特任准教授 光野 秀文 氏
第1部 「嗅覚の分子機構と、センサー応用に向けた技術開発」(13:30~14:25)
東京大学 大学院農学生命科学研究科 特任准教授 博士(理学) 佐藤 幸治 氏
【専門】感覚生理学、バイオセンサー
第2部 「匂いの価値の脳内情報処理と神経回路機構」(14:30~15:25)
理化学研究所 脳神経科学研究センター チームリーダー 博士(理学) 風間 北斗 氏
【専門】神経科学
第3部 「生物に学ぶロボティクス:生体計測と構成的アプローチ」(15:30~16:25)
東京工業大学 工学院 教授 博士(工学) 倉林 大輔 氏
【専門】システム工学、制御工学、ロボット工学
セミナー講演内容
第1部「嗅覚の分子機構と、センサー応用に向けた技術開発」
東京大学 佐藤 幸治 氏
嗅覚は生活環境に含まれる気体状分子を識別する感覚系で、味覚と比較して圧倒的に高感度であり、多様な分子を識別できる。この優れた嗅覚の特性は、警察犬や官能検査などで古くから社会利用され、新たなイノベーション創出も期待されている。特に近年では、健康状態に伴う体臭の変化に関する知見が蓄積され、嗅覚を利用した健康管理技術が大きく注目されている。
嗅覚の社会利用を促進するには生きた動物の嗅覚に依存せず、人工的に嗅覚機能を再現したセンサーを利用することが必須である。嗅覚に関連する遺伝子とその機能は解明が進んでおり、培養細胞を用いてその機能を再構築することも可能となった。一方でその最も重要な特性である超感受性について、どのような分子機構で実現できているのかは未解明のままであり、再構築も実現できておらず、バイオミメティックな匂いセンサーの開発に向け、大きな課題となっている。
本講演では、様々な生物で匂い分子という化学物質のシグナルが嗅覚器でどのように伝達されるのか、その分子機構を解説し、匂い応答としてそのシグナルを検出する技術を紹介する。また遺伝子と培養細胞を利用して、嗅覚器が行う気体状分子の検出を人工的に再現する試みについて紹介する。
第2部 「匂いの価値の脳内情報処理と神経回路機構」
理化学研究所 風間 北斗 氏
食物や個体から発せられる匂いを検出し、それらがもたらしうる報酬や危険性を評価することは、ヒトや動物が適切な行動を選択する上で必要不可欠である。しかし、脳がどのように匂いの価値情報を抽出するかは未だ解明されていない。
本講演では、少数の細胞で構成され、ほ乳類と類似した構造や機能を備えるショウジョウバエ成虫の嗅覚回路に着目し、匂いの価値を決定する脳内情報処理とその回路機構の理解に向けた取り組みを紹介する。
第3部「生物に学ぶロボティクス:生体計測と構成的アプローチ」
東京工業大学 倉林 大輔 氏
コンピュータやネットワーク技術が飛躍的に進歩した現在、サイバー空間における認識技術・機械学習アルゴリズムは目覚ましい発展を遂げています。その一方で、実空間で活動するロボットはまだ限られた環境でしか活動できていません。個々の動作をロボットと生物で比べれば、生物のそれは弱く、遅く、不正確であるように感じられます。
一方で、様々な状況変化がある中で最終的に目的を達成する能力は生物が圧倒的に優れています。このような生物がもつ柔軟で適応的な行動生成メカニズムの解明にあたり、我々は生物の計測と人工物による再構成を併用して挑んでいます。
この講演では、生物が発揮する匂い源探索行動を目標機能として、生物が内包するフィードバックメカニズムや行動に対する価値判断の推定を通して、ロボットにおいてその一端を実現しようとする研究活動をご紹介いたします。対象生物に昆虫をとりあげ、反射的だと思っていた行動に内在するフィードバックシステムを見出し、情報エントロピーや状態価値関数の推定を通して姿かたちや大きさが異なる人工物での機能再現を試みます。
セミナー詳細情報、お申し込み
セミナー詳細情報のご確認、またお申し込みに関しましては、以下よりご確認ください。センサ&IoTコンソーシアム会員と非会員でリンク先が異なります。